堀越豊裕 著 「日航機123便墜落 最後の証言」 [日航123便事故]
日航機123便墜落 最後の証言
堀越豊裕 著 平凡社新書 885 2018.07.15 初版
【構成】
プロローグ - 新聞へ恩リークを告白した男
第1章 御巣鷹という磁場
第2章 米紙にもたらされたリーク
第3章 ポーイング社長の苦衷
第4章 消えない撃墜説を検証する
第5章 墜落は避けられなかったか
第6章 スクープ記者たちの三十三年
あとがき
【感想・考察】
日航123便の墜落事故については、事故後30年目の2015年にテレビの特集や、本書でも引用されている『日航機事故の謎は解けたか』(花伝社)などの著書が出た。本書をざっと読んでみて、「新事実」が出たわけではない33年目の今年に、この本を出す意義はどこにあるのか?一作年来、青山透子氏の著書が出て、「異説」を唱えているのに対して、”あとがき”にあるように、「・・・ 撃墜・誤射説までもが浮上する現状に終止符た打たれればいいと願う。」ためか?
しかし、この本を読んでみても事故調の見解や当時の自衛隊の言動に納得がいくわけではない。これで終止符というわけにはいかない。疑問は疑問として残しておいたほうがずっとよい。
1.なぜボーイング社により圧力隔壁の上下の接合に誤った修理がなされたかのか?
普通に考えれば、米国の作業員は(正しかろうと正しくなかろうと)指定通りに作業するものだ。作業員は、本来すべき圧力隔壁に上下の縁を2列リベット打ちできなかったから、それを現場技術者に伝え、現場技術者から間に板を挟む指示を受けた。それでも何か問題があれば、再度技術者にそれを伝えるのではないか?また、このような現場指示で作業変更がなされた場合現場技術者はその作業に最も関心を持つはずであり、もし作業員が勝手な変更をしたとして、技術者が作業結果を確認しないということがあるのか?作業員が挿入板を切り始めたら「何をしているのか?」と聞かないものだろうか?
このような問題の検証には、修理を指示した側と実際に修理をした側の両方の証言を聞く必要があり、一方の側の証言だけでは疑問符を消すことはできず、無理に消す必要もない。
2.「急減圧」問題
著者は「急減圧という言葉が独り歩きしている面もある」(p.170)というが、
墜落事故の直接の原因は、圧力隔壁の破断ではなく、垂直尾翼が破壊したときに4系統の油圧配管全てを破断して油圧がなくなり、操縦不能になったことである。圧力隔壁が破断しても、その程度によっては必ずしも垂直尾翼の破壊には至らない。垂直尾翼が破壊されなければ、これほどの事故には至らなかったかもしれない。
垂直尾翼の破壊が、圧力隔壁の破断部からの与圧空気の吹き出しだけで生じたとするのが事故調の「急減圧」説である。もし事故調が推定したほどの急減圧でなければ、垂直尾翼が破壊したのには別の要因も加わっていた可能性がある。例えば、
○ 垂直尾翼の強度が元々不足していた
○ 1978年の尻もち事故で生じた機体の歪みなどで垂直尾翼の強度が低下していた
○ 何らかの外部的な力が加わった
急減圧であったか無かったかは、「乗客の感覚」だけでなく、「客室高度警報」の鳴動の仕方からも論じられる。すなわち、客室高度警報(客室の気圧が高度 10,000ft 相当以下に下がったときに鳴動する)は、衝撃音の2秒後に1秒間だけ鳴動して停止し、停止の27秒後に再度鳴動し始めて鳴動し続けた。急減圧があったのであれば、27秒間鳴動停止したのがイレギュラーであり、急減圧でなければ最初の1秒間鳴動したのがイレギュラーである。
事故調は警報音が約1秒間鳴動後約27秒間停止したことについては「その理由を明らかにすることはできなかった」(事故調報告書 付録 p.160)で済ませている。
「非急減圧」説側からみて、客室圧力が実際は警報圧まで低下していなかったのに1秒間だけ鳴動した原因として、従来言われている説の他に、「圧力センサー出力が、入力(客室気圧)の急変でオーバーシュートして一時的に警報値を超えた」という可能性がある。これはセンサーの特性を調べればあり得るかあり得ないかわかることだが。
3.自衛隊の不可解な言動
当時の自衛隊の「不可解な」言動をまとめると、
○ 事故機の捜索に百里基地でスクランブル待機していた戦闘機を使うという「異例」な行動。
○ 「派遣要請」を待たずに見切り発車で百里基地からV107 ヘリコプターを現場に向かわ
せた。それほど急いだにもかかわらず、夜間山間地での救助をする装備がないとして
救助活動は行わなかった。
○ 佐藤守氏の説明によれば、自衛隊は正確な場所を特定できる地図を持っていなかった。
にもかかわらず、せっせと(TACANで)位置を測った。
○ 正確ではないと知っていながら、そうは伝えずに位置情報を提供した。
○ 翌13日午前2時20分頃、これも「異例」にも、在京の報道各社に新たな位置情報、
長野県御座山南斜面頂上から1キロ、を電話で知らせた。
(『御巣鷹の謎を追う』文庫版 p.139)
自衛隊はこのような事故の救助活動の「本来の責任部門」ではなく、派遣要請を受けて手伝いをする立場にあるのだから、もしこの事故の発生に自衛隊が何の関係もないのであれば、自衛隊が「大慌て」(本書 p.289)になる必要性などないはずだ。
堀越豊裕 著 平凡社新書 885 2018.07.15 初版
【構成】
プロローグ - 新聞へ恩リークを告白した男
第1章 御巣鷹という磁場
第2章 米紙にもたらされたリーク
第3章 ポーイング社長の苦衷
第4章 消えない撃墜説を検証する
第5章 墜落は避けられなかったか
第6章 スクープ記者たちの三十三年
あとがき
【感想・考察】
日航123便の墜落事故については、事故後30年目の2015年にテレビの特集や、本書でも引用されている『日航機事故の謎は解けたか』(花伝社)などの著書が出た。本書をざっと読んでみて、「新事実」が出たわけではない33年目の今年に、この本を出す意義はどこにあるのか?一作年来、青山透子氏の著書が出て、「異説」を唱えているのに対して、”あとがき”にあるように、「・・・ 撃墜・誤射説までもが浮上する現状に終止符た打たれればいいと願う。」ためか?
しかし、この本を読んでみても事故調の見解や当時の自衛隊の言動に納得がいくわけではない。これで終止符というわけにはいかない。疑問は疑問として残しておいたほうがずっとよい。
1.なぜボーイング社により圧力隔壁の上下の接合に誤った修理がなされたかのか?
普通に考えれば、米国の作業員は(正しかろうと正しくなかろうと)指定通りに作業するものだ。作業員は、本来すべき圧力隔壁に上下の縁を2列リベット打ちできなかったから、それを現場技術者に伝え、現場技術者から間に板を挟む指示を受けた。それでも何か問題があれば、再度技術者にそれを伝えるのではないか?また、このような現場指示で作業変更がなされた場合現場技術者はその作業に最も関心を持つはずであり、もし作業員が勝手な変更をしたとして、技術者が作業結果を確認しないということがあるのか?作業員が挿入板を切り始めたら「何をしているのか?」と聞かないものだろうか?
このような問題の検証には、修理を指示した側と実際に修理をした側の両方の証言を聞く必要があり、一方の側の証言だけでは疑問符を消すことはできず、無理に消す必要もない。
2.「急減圧」問題
著者は「急減圧という言葉が独り歩きしている面もある」(p.170)というが、
墜落事故の直接の原因は、圧力隔壁の破断ではなく、垂直尾翼が破壊したときに4系統の油圧配管全てを破断して油圧がなくなり、操縦不能になったことである。圧力隔壁が破断しても、その程度によっては必ずしも垂直尾翼の破壊には至らない。垂直尾翼が破壊されなければ、これほどの事故には至らなかったかもしれない。
垂直尾翼の破壊が、圧力隔壁の破断部からの与圧空気の吹き出しだけで生じたとするのが事故調の「急減圧」説である。もし事故調が推定したほどの急減圧でなければ、垂直尾翼が破壊したのには別の要因も加わっていた可能性がある。例えば、
○ 垂直尾翼の強度が元々不足していた
○ 1978年の尻もち事故で生じた機体の歪みなどで垂直尾翼の強度が低下していた
○ 何らかの外部的な力が加わった
急減圧であったか無かったかは、「乗客の感覚」だけでなく、「客室高度警報」の鳴動の仕方からも論じられる。すなわち、客室高度警報(客室の気圧が高度 10,000ft 相当以下に下がったときに鳴動する)は、衝撃音の2秒後に1秒間だけ鳴動して停止し、停止の27秒後に再度鳴動し始めて鳴動し続けた。急減圧があったのであれば、27秒間鳴動停止したのがイレギュラーであり、急減圧でなければ最初の1秒間鳴動したのがイレギュラーである。
事故調は警報音が約1秒間鳴動後約27秒間停止したことについては「その理由を明らかにすることはできなかった」(事故調報告書 付録 p.160)で済ませている。
「非急減圧」説側からみて、客室圧力が実際は警報圧まで低下していなかったのに1秒間だけ鳴動した原因として、従来言われている説の他に、「圧力センサー出力が、入力(客室気圧)の急変でオーバーシュートして一時的に警報値を超えた」という可能性がある。これはセンサーの特性を調べればあり得るかあり得ないかわかることだが。
3.自衛隊の不可解な言動
当時の自衛隊の「不可解な」言動をまとめると、
○ 事故機の捜索に百里基地でスクランブル待機していた戦闘機を使うという「異例」な行動。
○ 「派遣要請」を待たずに見切り発車で百里基地からV107 ヘリコプターを現場に向かわ
せた。それほど急いだにもかかわらず、夜間山間地での救助をする装備がないとして
救助活動は行わなかった。
○ 佐藤守氏の説明によれば、自衛隊は正確な場所を特定できる地図を持っていなかった。
にもかかわらず、せっせと(TACANで)位置を測った。
○ 正確ではないと知っていながら、そうは伝えずに位置情報を提供した。
○ 翌13日午前2時20分頃、これも「異例」にも、在京の報道各社に新たな位置情報、
長野県御座山南斜面頂上から1キロ、を電話で知らせた。
(『御巣鷹の謎を追う』文庫版 p.139)
自衛隊はこのような事故の救助活動の「本来の責任部門」ではなく、派遣要請を受けて手伝いをする立場にあるのだから、もしこの事故の発生に自衛隊が何の関係もないのであれば、自衛隊が「大慌て」(本書 p.289)になる必要性などないはずだ。
日航123便事故 DFDR解析 [日航123便事故]
§ 日航123便事故DFDRの解析
事故調の「急減圧」説に対する批判は多いが、事故調が「急減圧」の根拠とする、DFDRの記録に残された「証拠」に対する批判はあまり見たことがない。
では、事故調のDFDR解読に反論の余地がないのかというと、(素人目で見てだが)疑問の余地はある。
1.事故調の「急減圧」説の要旨(『事故調査報告書』 付録4、p.56)
(1) 事故発生+0秒、圧力隔壁の1列リベット部が破断して、圧力隔壁に1.8㎡の穴が開く。
(2) 予圧された客室内から圧力隔壁の穴を通して、予圧されていない機体後部に空気が吹きだす。
(3) 0.051秒後、APU防火壁が耐圧限界に達し、脱落する
(4) 0.326秒後、垂直尾翼が耐圧限界に達し、破壊が始まる
(5) 1.29秒後、客室内相対湿度が100%に達する
(6) 1.656秒後、客室高度10,000ftに相当する圧力に到達する
(7) 2.538秒後、客室高度14,000ftに相当する圧力に到達する
(8) 6.8秒後、客室高度が外気圧力(24,000ft)に到達する、機内気圧は0.4気圧まで低下し
気温は-40℃まで低下し、その間機内ではほぼ10m/sの風が吹いた。
2.事故調によるDFDR解析
事故調は、DFDRの記録から、上記の急減圧の証拠を読み取ることができたとする。
事故報告書 3.1.7には、次のような説明がある。
(1) 前後方向加速度(LNGG)
18時24分35.70秒の前後方向加速度は、異常事態発生の前後に比べて約0.047G突出している。当時の重量を考慮すると、約11トンの前向き外力が作用したものと推定され、胴体後端部の破損がこの時刻付近で生じたものと推定される。なお、36.20秒以後の数秒間にわたって前後方向加速度は大きな変化を示すが、これは機体運動によるものと考えられる。
(2) 垂直加速度(VRTG)
18時24分35.66秒までは、ほぼ正常飛行状態を表す垂直加速度が記録されている。以後垂直加速度が36.16秒までわずかに増加し、36.28秒には約-0.24Gだけ跳躍し、その結果擾乱が始まっている。
垂直尾翼の破壊がこの時刻付近で生じたものと推定される。
(3) 横方向加速度(LATG)
24分35.73秒から35.98秒の間に、横方向加速度に最初の有意な変化が見られる。
前後方向加速度突出直後の横方向加速度のこの変動は、尾部の破壊が35.73秒の以前で生じたことを裏付けるものと推定される。
24分35.98秒以後、数秒にわたって横方向加速度に最大全幅0.08Gを超す振動が見られる。数秒後には完全に減衰していることから考えて、異常外力によって励振された自由振動と考えられる。
これら説明の基となる詳細な分析は付録6に記されている。
3.事故調による解析の疑問
【機体運動について】
機体の垂直平面、すなわち前後方向と垂直方向の動きで最も重要なものは、ピッチ角、すなわち機首の上げ下げである。
外力が働かない機体運動で、エンジン推力に変化がない場合、
• 垂直方向については、ピッチ角(あるいは迎え角)が増えれば揚力(垂直加速度)が増加し、減れば揚力は減少する。
• 一方、前後方向については、ピッチ角の増加は抵抗が増して、その分加速度は低下する。ピッチ角の変化で前後方向加速度が増加するのは、ピッチ角がマイナス(機首下げ)となって重力の加速度が進行方向に加わったときだけである。
【DFDR記録について】
(1) 前後方向加速度
事故調の説明では、35.70秒の前方向加速度の突出が、APU部の脱落で生じる前方への加速度の増加によるとしている。
しかし、この加速度の増加は当然、客室内の予圧された空気が破損した圧力隔壁の穴から外気へ噴出したことによるもので、それがわずか0.1秒単位ほどしか続かなかったというのは考えられない。圧力隔壁に事故調がいう1.8㎡の穴が開いても、それは秒単位で続くはずである。
一方、事故調が「36.20秒以後の数秒間にわたって前後方向加速度は大きな変化を示すが、これは機体運動によるものと考えられる。」としているが、36.6~36.7秒以後の時間帯にピッチ角が増加しているにもかかわらず、前方加速度が増加していることから、これが機体運動の結果とは考えられない。
この36.6~36.7秒以後続く前方加速度の増加こそ、APU部が脱落して、圧力隔壁に開いた穴から予圧された客室内空気が後方に噴出していたことを示しているのではないか?
つまり、APU部の脱落は、36.6~36.7秒近辺で生じたのではないか?
(41秒以後の前方向加速度の増加は、エンジン推力の増加による)
(2) 垂直加速度
事故調は、「垂直加速度が-0.24G突出する36.28秒付近で、垂直尾翼の破壊が生じたものと推定される」としているが、もし垂直尾翼の破壊で与圧空気が上方に抜けて機体尾部に下方向の力が加わったとしたら、それは尾部下げ、機首上げのモーメントを生じるはずである。しかし、このとき機首は下がっている。
そして、機首が下がれば、迎え角が減り、その結果揚力が減り、負の加速度が生じたのと同じ結果になる。つまり、これは予圧が尾部から上方に噴出したのではなく、「機体運動」によるものと考えられる。
その後の垂直加速度の変化も、ピッチ角(迎え角)の変化と概ね一致ししている。
(3) 横方向加速度
「35.98秒以後、数秒にわたって横方向加速度に最大全幅0.08Gを超す振動」が「異常外力によって励振された自由振動」というが、この(36秒~405秒)横方向の振動は、左右対称ではなく、右方向とやや左のほぼ中央との間で振動している。
36.5秒~38.5秒の間、方向舵のペダル操作(PED)は、右に切られ続けている。機首方位はこの間僅かに右に変位している。38.5秒から40.5秒までペダルは左に切られ、変位も左に変化する。その後ペダルは40.5秒付近で僅かに右に切られているが、機首方位は左に変位したままである。
横方向加速度の振動は、破壊されつつある尾翼がフラッターを起こしていて、40.5秒頃に方向舵の機能が完全に失われたことを示しているように見える。
このように見ると、尾翼は一瞬にして破壊されたのではなく、一部が壊れ、フラッターを起こしながら破壊が広がっていったように見える。
総じて言えば、事故調による異常発生時のDFDR解析は、「急減圧説」を支持するために、35.70秒の前方加速度の突出と、36.28秒の下方への加速度の突出を、それぞれAPU部破壊と垂直尾翼破壊に無理やりあてはめたもので、その結果、その後のより大きな変動を「機体運動」で片づけようとしているが、これは理に合わない。
事故調の説明を正しいと信じてしまえばそれまでだが、上記のような疑問を持つと、「では35.70秒の最初の瞬間的な前方加速度の増加は、それはCVR記録の「最初のドーン」の中の初期のピーク(CVRでは約35.6秒)に符合すると思われるが、何によって生じたのか」という疑問が残る。
事故調の「急減圧」説に対する批判は多いが、事故調が「急減圧」の根拠とする、DFDRの記録に残された「証拠」に対する批判はあまり見たことがない。
では、事故調のDFDR解読に反論の余地がないのかというと、(素人目で見てだが)疑問の余地はある。
1.事故調の「急減圧」説の要旨(『事故調査報告書』 付録4、p.56)
(1) 事故発生+0秒、圧力隔壁の1列リベット部が破断して、圧力隔壁に1.8㎡の穴が開く。
(2) 予圧された客室内から圧力隔壁の穴を通して、予圧されていない機体後部に空気が吹きだす。
(3) 0.051秒後、APU防火壁が耐圧限界に達し、脱落する
(4) 0.326秒後、垂直尾翼が耐圧限界に達し、破壊が始まる
(5) 1.29秒後、客室内相対湿度が100%に達する
(6) 1.656秒後、客室高度10,000ftに相当する圧力に到達する
(7) 2.538秒後、客室高度14,000ftに相当する圧力に到達する
(8) 6.8秒後、客室高度が外気圧力(24,000ft)に到達する、機内気圧は0.4気圧まで低下し
気温は-40℃まで低下し、その間機内ではほぼ10m/sの風が吹いた。
2.事故調によるDFDR解析
事故調は、DFDRの記録から、上記の急減圧の証拠を読み取ることができたとする。
事故報告書 3.1.7には、次のような説明がある。
(1) 前後方向加速度(LNGG)
18時24分35.70秒の前後方向加速度は、異常事態発生の前後に比べて約0.047G突出している。当時の重量を考慮すると、約11トンの前向き外力が作用したものと推定され、胴体後端部の破損がこの時刻付近で生じたものと推定される。なお、36.20秒以後の数秒間にわたって前後方向加速度は大きな変化を示すが、これは機体運動によるものと考えられる。
(2) 垂直加速度(VRTG)
18時24分35.66秒までは、ほぼ正常飛行状態を表す垂直加速度が記録されている。以後垂直加速度が36.16秒までわずかに増加し、36.28秒には約-0.24Gだけ跳躍し、その結果擾乱が始まっている。
垂直尾翼の破壊がこの時刻付近で生じたものと推定される。
(3) 横方向加速度(LATG)
24分35.73秒から35.98秒の間に、横方向加速度に最初の有意な変化が見られる。
前後方向加速度突出直後の横方向加速度のこの変動は、尾部の破壊が35.73秒の以前で生じたことを裏付けるものと推定される。
24分35.98秒以後、数秒にわたって横方向加速度に最大全幅0.08Gを超す振動が見られる。数秒後には完全に減衰していることから考えて、異常外力によって励振された自由振動と考えられる。
これら説明の基となる詳細な分析は付録6に記されている。
3.事故調による解析の疑問
【機体運動について】
機体の垂直平面、すなわち前後方向と垂直方向の動きで最も重要なものは、ピッチ角、すなわち機首の上げ下げである。
外力が働かない機体運動で、エンジン推力に変化がない場合、
• 垂直方向については、ピッチ角(あるいは迎え角)が増えれば揚力(垂直加速度)が増加し、減れば揚力は減少する。
• 一方、前後方向については、ピッチ角の増加は抵抗が増して、その分加速度は低下する。ピッチ角の変化で前後方向加速度が増加するのは、ピッチ角がマイナス(機首下げ)となって重力の加速度が進行方向に加わったときだけである。
【DFDR記録について】
(1) 前後方向加速度
事故調の説明では、35.70秒の前方向加速度の突出が、APU部の脱落で生じる前方への加速度の増加によるとしている。
しかし、この加速度の増加は当然、客室内の予圧された空気が破損した圧力隔壁の穴から外気へ噴出したことによるもので、それがわずか0.1秒単位ほどしか続かなかったというのは考えられない。圧力隔壁に事故調がいう1.8㎡の穴が開いても、それは秒単位で続くはずである。
一方、事故調が「36.20秒以後の数秒間にわたって前後方向加速度は大きな変化を示すが、これは機体運動によるものと考えられる。」としているが、36.6~36.7秒以後の時間帯にピッチ角が増加しているにもかかわらず、前方加速度が増加していることから、これが機体運動の結果とは考えられない。
この36.6~36.7秒以後続く前方加速度の増加こそ、APU部が脱落して、圧力隔壁に開いた穴から予圧された客室内空気が後方に噴出していたことを示しているのではないか?
つまり、APU部の脱落は、36.6~36.7秒近辺で生じたのではないか?
(41秒以後の前方向加速度の増加は、エンジン推力の増加による)
(2) 垂直加速度
事故調は、「垂直加速度が-0.24G突出する36.28秒付近で、垂直尾翼の破壊が生じたものと推定される」としているが、もし垂直尾翼の破壊で与圧空気が上方に抜けて機体尾部に下方向の力が加わったとしたら、それは尾部下げ、機首上げのモーメントを生じるはずである。しかし、このとき機首は下がっている。
そして、機首が下がれば、迎え角が減り、その結果揚力が減り、負の加速度が生じたのと同じ結果になる。つまり、これは予圧が尾部から上方に噴出したのではなく、「機体運動」によるものと考えられる。
その後の垂直加速度の変化も、ピッチ角(迎え角)の変化と概ね一致ししている。
(3) 横方向加速度
「35.98秒以後、数秒にわたって横方向加速度に最大全幅0.08Gを超す振動」が「異常外力によって励振された自由振動」というが、この(36秒~405秒)横方向の振動は、左右対称ではなく、右方向とやや左のほぼ中央との間で振動している。
36.5秒~38.5秒の間、方向舵のペダル操作(PED)は、右に切られ続けている。機首方位はこの間僅かに右に変位している。38.5秒から40.5秒までペダルは左に切られ、変位も左に変化する。その後ペダルは40.5秒付近で僅かに右に切られているが、機首方位は左に変位したままである。
横方向加速度の振動は、破壊されつつある尾翼がフラッターを起こしていて、40.5秒頃に方向舵の機能が完全に失われたことを示しているように見える。
このように見ると、尾翼は一瞬にして破壊されたのではなく、一部が壊れ、フラッターを起こしながら破壊が広がっていったように見える。
総じて言えば、事故調による異常発生時のDFDR解析は、「急減圧説」を支持するために、35.70秒の前方加速度の突出と、36.28秒の下方への加速度の突出を、それぞれAPU部破壊と垂直尾翼破壊に無理やりあてはめたもので、その結果、その後のより大きな変動を「機体運動」で片づけようとしているが、これは理に合わない。
事故調の説明を正しいと信じてしまえばそれまでだが、上記のような疑問を持つと、「では35.70秒の最初の瞬間的な前方加速度の増加は、それはCVR記録の「最初のドーン」の中の初期のピーク(CVRでは約35.6秒)に符合すると思われるが、何によって生じたのか」という疑問が残る。
日航123便事故 [日航123便事故]
§ 日航123便事故
今年は日航123便の墜落事故から30年ということで、テレビでこれに関する番組が幾つか放送された。それに刺激されて、何冊か本を(おもに事故原因についての部分を)読んだ。また、YouTubeにボイスレコーダーの記録をアップロードしたものがあり、聞いてみた。
資料から総じて得られたことは、この事故およびそれに関連した出来事には、未解決の問題・疑問が残っているということであった。それは、
1.「事故調査報告書」に記された事故原因は正しいか、特に「急減圧」はあったか?
2.墜落場所の特定・救出はなぜ遅れたか?特に、なぜ自衛隊は墜落場所の誤った情報を出し続けたのか?
3.事故調査のあり方、事故調査と犯罪捜査の関係の問題
である。
【参考資料】
1) 「事故調査報告書」 1987.06.19
2) 「墜落の夏」 吉岡 忍 新潮社 1986
1985年12月に、リハビリ中の落合由美さんにインタビューした内容が記載されている。それは、事故直後に発表されたものとは少し異なっている。
3) 「壊れた尾翼」 加藤寛一郎 技報堂出版 1987.08
著者は航空宇宙工学の工学博士。事故調査報告書の圧力隔壁破壊と急減圧を支持している。
4) 「隠された証言」 藤田日出男 新潮社 2003
著者は、事故調のいう「急減圧」はなかったとして、方向舵のフラッターにより垂直尾翼が最初に破壊したという仮説を提唱している。
5) 「機長の「失敗学」」 杉江弘 講談社 2003
著者は、「急減圧」も「方向舵フラッター説」も否定し、事故調の結論通り圧力隔壁破壊により垂直尾翼と機体尾部が破壊されたとするが、事故調のいう「急減圧」ではなく「相当な減圧」があったとという仮説を提唱している。
6) 「御巣鷹の謎を追う」 米田憲司 宝島社 2005
事故の原因としては、杉江氏と同様「相当の減圧」説。
7) 「日航機事故の謎は解けたか」 北村行孝・鶴岡健一 花伝社 2015.08.12
事故原因については、大方事故調の結論を認めているが、疑問が残っていることも認めている。
事故調査関係者へのインタビューが記載されている。
【WebSite】
8) 日航ジャンボ機墜落事故 JAL123便 JA8119号機 昭和60年8月12日
航空事故調査報告書に基づく 操縦室用音声記録装置(ボイスレコーダー:CVR)の記録
§ ボイスレコーダーの解読
通常、事故機のボイスレコーダー音声が公表されることはないが、この事故では「諸々の事情」によって、これが外部に流出した。その結果、ボイスレコーダーの解読について、事故調査委員会による解読が批判されることになった。
「事故調査報告書」中のボイスレコーダーの解読については、特に事故発生直後の運航乗務員(機長(CAP)、副操縦士(COP)、航空機関士(F/E))の間の会話、その中でも「オールエンジン・・・」について、議論が多い。
YouTubeには、テレビの特集他、この関係の動画がたくさんアップロードされているが、下記の動画で聞いてみた。雑音が大きいのと機長が非常に早口で話すので、大変聞き取りにくい。
耳がいいほうではないが、何とか聞き取った内容は、事故調が解読したものとずいぶん違っている。
【YouTubeアップロード動画】
09) 日航ジャンボ機 - JAL123便 墜落事故 (飛行跡略図 Ver1.2 & ボイスレコーダー)
10) 日本航空123便墜落事故フライトシミュレート(機外視点) ニコニコ動画GINZA
【事故調の解読】
「・・・」は解読できなかった部分、アンダーラインは不確かな部分
18:24:35-36 ?ドーンという音
37 ? 客室高度警報音または離陸警報音
38 ①(?) ・・・
39 ②(CAP) なんか爆発したぞ
42 ③(CAP) スコーク 77
43 ④(COP)ギアドア (CAP)ギアみてギア
44 ⑤(F/E?) えっ (COP) ・・・ (CAP) ギアみてギア
45
46 ⑥(CAP) エンジン?
47 ⑦(COP) スコーク 77
48 ⑧(F/E) オールエンジン・・・
51 ⑨(COP) これ見てくださいよ
53 ⑩(F/E) えっ
55 ⑪(F/E) オールエンジン・・・
57 ⑫(COP) ハイドロプレッシャ見ませんか?
59 ⑬(CAP) なんか爆発したよ
18:25:00
04 ⑭(F/E) ギア ファイブ オフ
【動画で聞こえた内容】
「?」は問いかけ。()は確信がないもの。赤の部分が事故調解読と異なるところ。
時刻は確認できないので「事故調査報告書」に従う。
18:24:35-36 ?ドーン、ドーンと1秒弱の間隔で2回衝撃音
37 ? 客室高度警報音または離陸警報音 1秒継続
38 ①(CAP) まずい
39 ②(CAP) なんか(爆発し)たぞ
42 ③(CAP) スコーク スコーク この関係(いれ)るぞ
「この関係(いれ)るぞ」は、恐らく機長が副操縦士に寄って言ったため、副操縦士のマイクから聞こえる。43秒にまたがる。
43 ④(CAP)ギアみてギア
44 ⑤(F/E) えっ (CAP) サンキュー (CAP?) ギア
「サンキュー」は声があまり大きくないので、副操縦士への指示に副操縦士が何かしたことへの返事と思われる。
46 ⑥(CAP) オーケー?
47 ⑦(COP) スコーク セブン セブン
48 ⑧(F/E) オレンギア>(all in gearのこと?) (オールエンジン・・・)
----(資料09の動画はここまで)
51 ⑨(COP) これ見てくださいよ
53 ⑩(F/E) えっ
55 ⑪(F/E) オレンギア>(all in gearのこと?) (オールエンジン・・・)
57 ⑫(COP) ハイドロプレッシャ見ませんか?
59 ⑬(CAP) なんか(わか)った? (なんか爆発したよ)
18:25:00
05 ⑭(F/E) ギア ファイブ オフ
今年は日航123便の墜落事故から30年ということで、テレビでこれに関する番組が幾つか放送された。それに刺激されて、何冊か本を(おもに事故原因についての部分を)読んだ。また、YouTubeにボイスレコーダーの記録をアップロードしたものがあり、聞いてみた。
資料から総じて得られたことは、この事故およびそれに関連した出来事には、未解決の問題・疑問が残っているということであった。それは、
1.「事故調査報告書」に記された事故原因は正しいか、特に「急減圧」はあったか?
2.墜落場所の特定・救出はなぜ遅れたか?特に、なぜ自衛隊は墜落場所の誤った情報を出し続けたのか?
3.事故調査のあり方、事故調査と犯罪捜査の関係の問題
である。
【参考資料】
1) 「事故調査報告書」 1987.06.19
2) 「墜落の夏」 吉岡 忍 新潮社 1986
1985年12月に、リハビリ中の落合由美さんにインタビューした内容が記載されている。それは、事故直後に発表されたものとは少し異なっている。
3) 「壊れた尾翼」 加藤寛一郎 技報堂出版 1987.08
著者は航空宇宙工学の工学博士。事故調査報告書の圧力隔壁破壊と急減圧を支持している。
4) 「隠された証言」 藤田日出男 新潮社 2003
著者は、事故調のいう「急減圧」はなかったとして、方向舵のフラッターにより垂直尾翼が最初に破壊したという仮説を提唱している。
5) 「機長の「失敗学」」 杉江弘 講談社 2003
著者は、「急減圧」も「方向舵フラッター説」も否定し、事故調の結論通り圧力隔壁破壊により垂直尾翼と機体尾部が破壊されたとするが、事故調のいう「急減圧」ではなく「相当な減圧」があったとという仮説を提唱している。
6) 「御巣鷹の謎を追う」 米田憲司 宝島社 2005
事故の原因としては、杉江氏と同様「相当の減圧」説。
7) 「日航機事故の謎は解けたか」 北村行孝・鶴岡健一 花伝社 2015.08.12
事故原因については、大方事故調の結論を認めているが、疑問が残っていることも認めている。
事故調査関係者へのインタビューが記載されている。
【WebSite】
8) 日航ジャンボ機墜落事故 JAL123便 JA8119号機 昭和60年8月12日
航空事故調査報告書に基づく 操縦室用音声記録装置(ボイスレコーダー:CVR)の記録
§ ボイスレコーダーの解読
通常、事故機のボイスレコーダー音声が公表されることはないが、この事故では「諸々の事情」によって、これが外部に流出した。その結果、ボイスレコーダーの解読について、事故調査委員会による解読が批判されることになった。
「事故調査報告書」中のボイスレコーダーの解読については、特に事故発生直後の運航乗務員(機長(CAP)、副操縦士(COP)、航空機関士(F/E))の間の会話、その中でも「オールエンジン・・・」について、議論が多い。
YouTubeには、テレビの特集他、この関係の動画がたくさんアップロードされているが、下記の動画で聞いてみた。雑音が大きいのと機長が非常に早口で話すので、大変聞き取りにくい。
耳がいいほうではないが、何とか聞き取った内容は、事故調が解読したものとずいぶん違っている。
【YouTubeアップロード動画】
09) 日航ジャンボ機 - JAL123便 墜落事故 (飛行跡略図 Ver1.2 & ボイスレコーダー)
10) 日本航空123便墜落事故フライトシミュレート(機外視点) ニコニコ動画GINZA
【事故調の解読】
「・・・」は解読できなかった部分、アンダーラインは不確かな部分
18:24:35-36 ?ドーンという音
37 ? 客室高度警報音または離陸警報音
38 ①(?) ・・・
39 ②(CAP) なんか爆発したぞ
42 ③(CAP) スコーク 77
43 ④(COP)ギアドア (CAP)ギアみてギア
44 ⑤(F/E?) えっ (COP) ・・・ (CAP) ギアみてギア
45
46 ⑥(CAP) エンジン?
47 ⑦(COP) スコーク 77
48 ⑧(F/E) オールエンジン・・・
51 ⑨(COP) これ見てくださいよ
53 ⑩(F/E) えっ
55 ⑪(F/E) オールエンジン・・・
57 ⑫(COP) ハイドロプレッシャ見ませんか?
59 ⑬(CAP) なんか爆発したよ
18:25:00
04 ⑭(F/E) ギア ファイブ オフ
【動画で聞こえた内容】
「?」は問いかけ。()は確信がないもの。赤の部分が事故調解読と異なるところ。
時刻は確認できないので「事故調査報告書」に従う。
18:24:35-36 ?ドーン、ドーンと1秒弱の間隔で2回衝撃音
37 ? 客室高度警報音または離陸警報音 1秒継続
38 ①(CAP) まずい
39 ②(CAP) なんか(爆発し)たぞ
42 ③(CAP) スコーク スコーク この関係(いれ)るぞ
「この関係(いれ)るぞ」は、恐らく機長が副操縦士に寄って言ったため、副操縦士のマイクから聞こえる。43秒にまたがる。
43 ④(CAP)ギアみてギア
44 ⑤(F/E) えっ (CAP) サンキュー (CAP?) ギア
「サンキュー」は声があまり大きくないので、副操縦士への指示に副操縦士が何かしたことへの返事と思われる。
46 ⑥(CAP) オーケー?
47 ⑦(COP) スコーク セブン セブン
48 ⑧(F/E) オレンギア>(all in gearのこと?) (オールエンジン・・・)
----(資料09の動画はここまで)
51 ⑨(COP) これ見てくださいよ
53 ⑩(F/E) えっ
55 ⑪(F/E) オレンギア>(all in gearのこと?) (オールエンジン・・・)
57 ⑫(COP) ハイドロプレッシャ見ませんか?
59 ⑬(CAP) なんか(わか)った? (なんか爆発したよ)
18:25:00
05 ⑭(F/E) ギア ファイブ オフ