O.K.牧場の決闘 - 親カウボーイの証言 その3 [ワイルドウエスト]

O.K.牧場の決闘 - 親カウボーイの証言 その3

§ ビーハンの証言の見直し

 O.K.コラール近くのガンファイトでは、最初に二発の拳銃による銃撃で始まったことが多くの証言で確認されている。この二発を撃ったのは誰か。
この部分について、ジョン・ビーハン郡保安官の証言を引用すると、

「彼らがクラントンたちとマクローリーたちの数フィート内に達した時、彼らの一人が――私はワイアットであったと思うが、”You sons of-bitches, you have been looking for a fight, and now you can have it!” と言うのを聞いた。また、大体このとき私はある声が “Throw up your hands!” と言うのを聞いた。

 この間に拳銃(複数)が向けられていた。私は特にニッケル鍍金された拳銃を見ていた、それは一団のある一人に向けられていた。私はビリー・クラントンに向けられていたと思う。その時の私の印象はホリディがそのニッケル鍍金された拳銃を持っていたというものであった。私は彼が確かに持っていたというつもりはない。私が話したこれらの拳銃はアープたちの手にあった。

 “Throw up your hands!”という命令が与えられたとき、私はビリー・クラントンが “Don't shoot me. I don't want to fight!” と言うのを聞いた。トム・マクローリーは同じ時に彼のコートを開いて、”I have nothing” あるいは ”I'm not armed”、あるいは何かそのようなことを言った。彼は、彼が武器を持っていないことを私に示したときにしたのと同じ仕草をした、彼のコートの両側を持ち、それをこのように広げた[図示する]。ビリー・クラントンが闘いたくないと言ったとき、私は彼の手の位置を見なかった。私の関心は二秒ほどニッケル鍍金された拳銃に向けられていた。ニッケル鍍金された拳銃が最初に発砲した、そして直ぐに第二の射撃が-二つの射撃は正に同時に-これら二発は同じ拳銃からではありえなかった-それらは余りに同時に近かった。ニッケル鍍金された拳銃は右から二番目の者によって発砲された。右から三番目の者が二発目を撃った、もしそれを第二発と呼べるならば。次いで闘いは全面的になった。最初の二発が撃たれた後、二ないし三発が非常に速やかに撃たれた-私は誰によるのか言えない。最初の二発はアープ側によって撃たれた。私は最初の二発の直後の弾が誰によって撃たれたのか断言できない。その時の私の印象は、次の三発は最初の二発と同じ側から、即ちアープ側から来た。[弁護団は証人が彼の印象を述べることに反対した。却下された。]これは、その場所にいてそれを見たときの、私の印象であった。」

 ビーハンが反対尋問に返事が出来なかったように、散弾銃を持っていたホリディが「(ニッケル鍍金された)拳銃で最初に撃った」というのはあり得ない。では、撃ち合いの開始時にニッケル鍍金された拳銃を見たというのはホリディを陥れるための全くの絵空事の偽証なのか?しかし、別の見方もできる。

 ビーハンの証言には、この目的で偽証をするには不必要な内容がある。

 ビーハンは、「ニッケル鍍金された拳銃は右から二番目の者によって発砲された。右から三番目の者が第二発目を撃った」とも証言した。

 銃撃が始まったときのアープ側の配置は、左から右にヴァージル、ワイアット、モーガン、ホリディであり、ヴァージルは空き地に入り、ワイアットはフライの建物の角、モーガンはワイアットの少し右側の歩道上、そしてホリディはモーガンの少し右側の路上にいたことはほぼ一致した見解である。

 それによれば、右から二番目の者はモーガン、三番目はワイアットということになる。

 ビーハンの証言時に、ガンファイトの配置図が法廷にあったようだが、残念ながら参照した資料にはその図は載っていなかった。ただビーハンの説明では、8がホリディ、5がヴァージルとなっているので、やはり上記の見解と同じであったと思われる。

 ある意味、これは当然の帰結である。ヴァージルは右手に杖を持っていた。ホリディは散弾銃を持っていた。最初に発砲された二発が拳銃からのものであり、どちらもアープ側によるものであれば、拳銃を使う手が空いていたのは、ワイアットとモーガンだけである。

 ビーハンは検死官審問とスパイサー聴聞(裁判)の両方で、前記の証言をほぼ繰り返している。それなのに何故、「右から二番目の者」とホリディの矛盾を無視したのか分らない。

 アープ側の各人がどんな拳銃を使ったのかは知られていない。ドク・ホリディと『ニッケル鍍金された拳銃』を結びつけているのはビーハンとクレイボーンの証言だけであり、しかもそれは人物を特定して言っていたのではなく、『ニッケル鍍金された拳銃』=ホリディの拳銃という先入観に基づいていたとも言える。もし、本当にホリディが『ニッケル鍍金された拳銃』を使っていたとしても、モーガン・アープが『ニッケル鍍金された拳銃』を使っていなかったことは言い切れない。


〇 “Murder in Tombstone” のシナリオ

 Steven Lubet著 “Murder in Tombstone” ([コピーライト]2004)は、「アープ/ホリディ裁判」の経過を主に描いた本である。この著者は、ワイアットが証言した、ビリー・クラントンとフランク・マクローリーが拳銃を抜き始めたのを見てから、ワイアットがポケットに入っている拳銃を抜いてビリーとほぼ同時に撃つことは物理的に不可能という観点から、実はワイアットは既に拳銃を手にしていたと見る。そして、フランクの(ワイアットから見て)不審な動きに反応して撃ち、続いて、やはり拳銃を手にしていたモーガンが撃ったとする。

 アープたちが空き地にやって来たときの状況は、アープたちのほうがずっと「アグレッシブ」であり、また撃ち合いの経過から見て、最初の二発をアープ側、(どちらが先であったかは別として)ワイアットとモーガンが撃ったというのが、最もありそうなシナリオである。

 ワイアットあるいはモーガンが何故撃ったかを知ることは事実上不可能である。誰かが真実を言い当てたとしても、それを証明することはできない。

 “CooperToons”という一風変わったWebSiteの”THE GUNFIGHT AT THE OK CORRAL”では、次のようなシナリオを提示している。
「ヴァージルは“Throw up your hands!”と言った。そこでビリー・クラントンは手を上げようとした。するとヴァージルは続いて “I want your guns!” と言った。そこでビリーは先ずは銃を渡そうと考え、銃に手を伸ばした。それを見たアープたちは、ビリーが撃つために銃を抜こうとしていると思い、撃ち始めた。」

 因みに、クレイボーンの証言によれば、ビリー・クラントンの拳銃ホルスターはガンベルトの左側につけられていた。(1993年の映画『トゥームストーン』では、ビリー・クラントンのホルスターは正しく左側になっている。)

 空き地に来てビリー・クラントンとフランク・マクローリーが拳銃をガンベルトのホルウターに入れているのを見たとき、ワイアットとモーガンは彼らに拳銃を突きつけた。そして何らかの理由で彼らは撃った。というのが最もありそうなシナリオである。

 こうして “Fighting is commenced.”


§ ガンファイトの経過についてのビーハンとC.H.ライトの証言

 ビーハンは、前記の証言を次のように続けた:

「『手を上げろ!』という言葉が発せられた後、ニッケル鍍金された拳銃が発射された。私は、『手を上げろ!』と言ったのはV. [Virgil] W.アープであったと思う。多くの闘いと銃撃が進行した。次に[ここの数語は解読できない。]私は、フランク・マクローリーが通りでよろめいているのを見た、片手を彼の腹に当て、右手で拳銃を持っていた。私は彼がモーガン・アープに向けて撃つのを見た、そして拳銃の方向から彼は地面を撃ったと言うべきである。フランク・マクローリーはフライの建物に向けて二回撃った、そして彼が通りを横切り始めた、その時彼はモーガン・アープに向けて撃った。私はその方角から二発を聞いた。私は彼が通りの半ばまで横切った後、彼を見なかった。私の関心は他の方角に向いていた。次いで私はその方角を見て、フランク・マクローリーが走っていて、一発の弾丸が発射され、彼は頭から倒れた、そして私はモーガン・アープが『彼を仕留めた!』と言うのを聞いた。

 それが大体闘いの終わりであった。その後二発ほどあったかもしれないが、私は覚えていない。私は最初の二発の効果を見たとは言えない。私が闘いの間に倒れたのを見た関与者は、モーガン・アープとフランク・マクローリーだけであった。私は最初の二発の効果を示す人のどんな動きも見なかった。私はどんな兆候にも気づかなかった[解読不能]。

 私が撃たれたと確信した最初の人物はフランク・マクローリーであった。私は彼がよろめき混乱しているのを見て、彼が撃たれたことを知った。彼は最初の二発が撃たれた少し後であった。私はマクローリー側の誰の手にもどんな武器も見なかった、フランク・マクローリーとビリー・クラントン以外には。私はフランク・マクローリーが歩道上にいるのを見た、フライの建物とその先の貸間屋の間の空き地と反対側のロットの前面のリール(Lille)からほんの二、三フィート以内であった。

 マクローリーあるいはクラントン側の誰かの手に武器を見るまでに、八ないし十発が撃たれたと思う。私が拳銃を手にしているのを最初に見たのはフランク・マクローリーである。アイク・クラントンは最初の五発が撃たれた後に脱して逃げた。私は彼をフライの家の角の背後に見た、私が最後に彼を見たのはそこであった。私は彼がフライの建物の背後の建増に走って入ったと判断した。」

 夫のC.H. ライトは、フレーモント通りと三番通りの北西の角にあったアズテックハウスの三番通り側の窓からガンファイトを目撃した。彼が一階から見たのか二階から見たのかは知られていない。彼が見たのは二発の銃声に始まる最初の数秒が過ぎてからであった。彼はマシューズ医師による検死官審問でのみ証言し、スパイサー聴聞には召喚されなかった。

「私が『1、2』と数えることができるほど速やかに二発が発砲された、私は三番通りの窓に向かって跳び、フレーモント通りを見た、私は数人が撃っているのを見た。私が見たとき、一人の者[Tom McLaury]がよろめきフレーモントと三番通りの角の南側、丁度角の家に倒れるのを見た。私はその者が誰か知らなかった。」

 このフレーモント通りと三番通りの角に倒れた者がトム・マクローリーであったことは間違いなく、この証言によればトムは最初の数発の銃撃の間に撃たれたことになる。

 「私は再度通りを見た。私は三人[WyattとVirgil EarpとDoc Holliday](*1)が約10ないし15フィート(3-4.5m)離れて、大体通りの中央に立っていてフライの写真館とその西側(below)の家に面しているのを見た。私はもう一人の者が空き地に隣接した建物(bulding)に寄りかかっているのを見た[Billy Clanton](*2)。二人の者が家(house)の側に立っている者(*3)に発砲しているようであった[WyattとVirgil Earp]。
 その者(*3)は彼のする動きから撃たれたようであった。次いで彼(*3)は一発こちら側の者(lower man)(*4)に、北西側の者(*4)に向けて撃った、後に彼はホリディだと理解した。」

(*1)原文の説明では、WyattとVirgilとHollidayとなっているが、Wyatt、Morgan、Hollidayではないか?
(2*)原文の説明ではBilly Clantonとなっているが、Virgilで、右脚脹脛を撃たれて倒れたた後立ち上がりフライの建物に寄りかかっていたのではないか?
(*3)はBilly Clantonで、彼が一発Holliday(*4)に向けて撃ったと解する。

「馬と共にいる者(*5)によって撃たれた射撃は効果があったようにみえた、というのは、相手(the other man)(*6)は部分回転した。次いで私は家に向かっている者を見ていて、彼らの誰かが倒れるのではないかとずっと予想していた、そして彼(*6)は地面に倒れ落ちる(slide down)動きをして、明らかに負傷した。その瞬間馬が見えなくなった。わたしは彼が何処へ行ったのか知らない。このこちら側の者(lower man)(*5)は明らかに通りに向かって撃っていた。彼は一発か二発撃った。次いで私は、家(house)の横に倒れ落ちた者(*3)見た、頭と肩を家に寄りかかり、彼の拳銃を膝に載せ、二発を撃った。彼は第三発を撃とうとしたが、明らかに弱り過ぎていた。射撃は外れた。同時に背が高くグレーの衣服と鍔広の帽子を着た者がいて(*4)、通りの中ほどに立っていて、二発を明らかに家に寄りかかっていた者の方角に撃った。次いで、一人 (?) が通りの中ほどに現われて通りに撃った。家の角近くの地面に横たわったこの者(*3)は三発だけしか撃たなかった。彼は力を失ったように見えた。次いで、通りの北側にいた者たち(*7)によって更に二、三(a few)発が撃たれ、彼らは私の視野から去り、私は彼らを見ることができなかった。」

(*5)はフランク・マクローリーで、(*6)はモーガン・アープと考えられる、ビーハンが「フランクがモーガンに向けて二発撃った(一発は地面に当たった)」と証言しているのと符合する。
(*7)ガンファイトが終わる前にフレーモント通りに北側に行ったのはフランクだけなので、はっきりしないが、フランクとホリディか?

「次に私が見たことは、建物の角の南側に倒れている者の側に二人の者(*8)が立っていることであった。黒い服を着た背の高い者(*9)が手にライフル銃を持って現場に現われ、『その拳銃をその者から取り去れ、そうでないと私は彼を殺す!』と言った。このとき撃ち合いは全て終わり、私は全体で10ないし15秒を超えなかったと思う、この黒い服を着た背の高い者は、乱闘の関与者ではなかった。

(*8)はヴァージルとワイアットと思われる。
(*9)はフライの写真館の主人カミラス・フライ(Camillus Fly)である。

 六人が発砲したように見えた、四人は通りの中ほどに、一人は通りの南側、そして一人は馬と共にいた。後に、私はグレーのコートを着た者がドク・ホリディだと知った。全部で25ないし30発が発射されたと思う。散弾銃を持っていた者を見なかった。闘いは私のいるところから130ないし140フィート(39.6m-42.7m)離れていた。音から、最初の二発は拳銃で撃ったものと思う。散弾銃からの音が一回あったと思う。
 
 私は通りの角に倒れた者が闘いの間中そこに横たわっていたのを見た。私は彼が撃ったのを見なかった。彼は撃たれた最初の者であったように見えた。最初の二発の間には、人が拳銃を抜いて撃つのに十分な時間はなかった。それらは二つの拳銃からに違いない。二発目を発砲した者は、最初の弾が発射されたときに発砲する準備がされていたに違いない。私が聞いた二発は私が窓へ行く前に発砲されたが、そこへ行くのに一秒はかからなかった。」

 ライトはシルズと同様に関与者を知らなかった。彼の証言はそういう人の「生の目撃証言」の例を示している。彼はこれを検死官審問で証言したが、彼の証言はアープ側の有罪/無罪には関係しないので、アープ裁判には証人として召喚されなかった。
 
ライトが目に入った全てを正確に証言しているとは言わないが、フランクがモーガンを撃った描写はビーハンの証言と符合し、ビーハンの証言が「デタラメ」ではないことを傍証している。



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