片岡剛志著 「奇跡の経済教室 基礎知識編」 [読書感想]

奇跡の経済教室 基礎知識編
片岡剛志 著 KKベストセラーズ 刊 2019.04.22

本書は、第1部では「需要の過不足を原因とするインフレとデフレ」を中心として日本経済の現状を読み解いている。第2部では、現代経済学の誤りを解説している。

【構成】
はじめに
第1部 経済の基礎知識をマスターしよう
第1章 日本経済が成長しなくなった単純な理由
第2章 デフレの中心で、インフレ対策を叫ぶ
第3章 経済政策をビジネス・センスで語るな
第4章 仮想通貨とは、何なのか
第5章 お金について正しく理解する
第6章 金融と財政をめぐる勘違い
第7章 税金は、何のためにある?
第8章 日本の財政破綻シナリオ
第9章 日本の財政再建シナリオ
第2部 経済学者たちはなぜ間違うのか?
第10章 オオカミ少年を自称する経済学者
第11章 自分の理論を自分で否定する経済学者
第12章 変節を繰り返す経済学者
第13章 間違いを直せない経済学者
第14章 よく分からない理由で、消費増税を叫ぶ経済学者
第15章 主流派経済学は、宗教である

本書のまとめ
1. 平成の日本経済が成長しなくなった最大の原因は、デフレである。
2. デフレとは、「需要不足/供給過剰」が持続する状態である。インフレとは、「需要過剰/供給不足」が持続する状態である。
3. 新自由主義は、本来、インフレ対策のイデオロギー。デフレ対策のイデオロギーは、民主社会主義。
4. 平成日本は、デフレになったのに、新自由主義のイデオロギーを信じ、インフレ対策(財政支出の削減、消費増税、規制緩和、自由化、民営化、グローバル化)をやり続けた。
5. 貨幣とは、負債の特殊な形式である(「信用貨幣論))
6. 貨幣には、現金通貨と預金通貨がある。
6. 「現代貨幣理論」の貨幣理解のポイント
    国家は、国民に対して納税義務を課し、「通貨」を納税手段とすることを法令で決める。
8. 量的緩和(マネタリー・ベースの増大)では、貨幣供給量は増えない。
9. 財政に関する正しい理解(「機能的財政論」)
10.財政赤字を拡大しても、それだけでは金利は上昇しない。
11. 国内民間部門の収支+国内政府部門の収支+海外部門の収支=0
12. 税収=税率×国民所得
13. 政政策の目的は、「財政の健全化」ではなく、デフレ脱却など「経済の健全化」でなけてばならない。
14. 自由貿易が経済成長をもたらすとは限らないし、保護貿易の下で貿易が拡大することもある。
15. 主流派経済学は、過去30年間で、進歩するのではなく退歩した。非主流派経済学者は、一般均衡理論という、信用貨幣を想定していない非現実的な理論を信じている閉鎖的な集団の一員である。
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【考察】
本書の内容は「現代貨幣理論(MMT)」と同じである。それで「反MMT」の側に立って批判する。
米山隆一氏の「MMT(現代貨幣理論)なんてあり得ない!」によれば:
「 ***この中では、MMTは「地動説」的発想の転換であるとして、以下のような主張がなされています。
  1.銀行の預金が貸し出されるのではなく、預金は貸し出しによって生まれる
  2.通貨発行権を持つ国は財政赤字では破綻しない
  3.財政赤字は民間の貯蓄を増やす
  4.財政赤字によって通貨供給量が増える
  5.財政赤字は金利上昇をもたらさない
  6.財政赤字がインフレを招いたら、財政赤字を止めればいい(やめる事が出来る)
ところが、このうち1~5は標準的経済学でも同じ結論になります。」
そして、「MMT批判者の争点は6になる」としている。

〇市場経済とマネー
市場経済で取引されるものは、究極的には「物(財・サービス)」と「物(財・サービス)」の交換であり、マネーはその交換を媒介するだけである。市場経済のプレイヤーは、なにがしかを生産・販売してマネーを手に入れ、そのマネーで必要なものを購買し消費する。物(財・サービス)は生産され消費され続けるが、マネーはプレイヤーからプレイヤーへと流通し続ける。それゆえ市場経済のマネーは「通貨(流通貨幣)」と呼ばれる。

ある実物経済の規模を支えるのに必要な貨幣量は定まっている。
実物経済を拡大するには、それに応じた貨幣の供給が必要である。それ以上の貨幣を供給しても、それは実物経済で流通せずに資産市場に流れる。
実物経済から貨幣を引き上げれば、実物経済の規模は縮小せざるを得ない。
一方、物(財・サービス)とマネーの交換取引だけでは市場経済は「均衡しない」

〇市場経済と財政の関係
政府を市場経済に組み込む場合、政府は「行政サービス」を提供してその費用の対価を「税」として徴収することで、均衡を保つ。

市場での取引は、「ゼロサム」である。著者が第9章で説明している通り、

    国内民間部門の収支+国内政府部門の収支+海外部門の収支=0

海外部門の収支≦0 つまり黒字国であれば、国内民間部門は、政府財政支出を含めて、支出を賄うだけの「購買力」を生み出していることを意味する。

日銀による財政ファイナンス以前にも、国債を国内で消化できたのは、日本が黒字国で、政府支出を賄うだけの生産力、あるいは「購買力」があり、それで国債を購入して「購買力」を政府に渡し財政支出を支えていたからだ。
この意味で、「政府の財政赤字がGDPの〇〇%を超えたら問題だ」とか、「毎年の財政赤字をGDPの〇〇%内に収めれば問題ない」などというのは、全く根拠がない。

この状態で政府が赤字国債を累積し続けることになったのは、国内生産力が生み出す収入あるいは「購買力」の政府への分配(つまり税収)と財政支出との不均衡のためであり、政府財政赤字の結果として生じる民間黒字を税として徴収していれば、赤字を累積させる必要はなかった。「永久に借り続けて返さない」のと「徴収する」のは同じことで、徴収した方がはるかに良かった。 プライマリーバランスを取るとは、正にそうすることである。

〇不均衡の累積
政府の赤字財政が継続することは、”不均衡”の累積である。中央銀行が財政ファイナンスを続ければ、その分市場にはマネーが累積する。
この累積マネーは実物市場で流通せずに、「退蔵」されるか、あるいは金融・資産市場に流れ、金融資産・地価などの上昇を起こす。これらは、「物価」を構成する品目には含まれていないから、「物価上昇はない」とされるが、格差の拡大、居住費の増大を引き起こす。

不均衡の累積は、最初の数年間は目立たないが年数を重ねるに連れて弊害が生じ、そのときにはもう「後戻りはできない」。

累積赤字分のマネーは実物市場で流通しているのではないから、実物市場に対する課税(所得税、消費税など)で回収しようとしてはならない。そんなことをすれば実物経済を圧迫し、不況に陥る。では、どのようにして回収すべきか?資産課税できるのか?放っておいて何時か高インフレが起きて解決してくれるのを待つのか?それは財政赤字を累積させた人たちに責任をもって答えてもらおう。

累積赤字を減らす一つの方法は、貿易黒字を拡大し、それを税で徴収することである。「米国民が”馬鹿みたいに”過剰消費する」のを期待し、「中国政府が”馬鹿みたいに”過剰投資する」のを期待出来たら可能かもしれないが、それは過去の話だ。

〇「インフレが起きたら課税すればよい」というが、どうなればインフレになるか
著者が第1章で説明している通り、物価の上昇・下落は「需要と供給の関係」で決まる。これは、実GDPが潜在GDPに近づけば、需給が逼迫して物価上昇に転じることを意味する。更に需要が増えれば、生産性向上がない限り、国内生産では追いつかずに輸入増となる。

政府が「物価上昇を引き起こさずに財政を拡大できる限度」とは、GDPギャップを埋める範囲内で、(同じことだが)対外赤字を出さない範囲内ということになる。

市場経済は競争で成り立っているからその基調は「供給力過剰」である。したがって多少の需要増加では物価は上昇しない。戦後復興期のような時代を別にすれば、物価が上昇に転ずるのは、主に石油の輸入物価上昇など専ら外部要因による。それは「増税すれば済む」ものではない。

一方で、日本の雇用の現状は、(雇用の質は別として)完全雇用に近いから、財政による事業の更なる増加は民間経済に対する労働力の「クランディングアウト」を引き起こす。そして、新たなインフラ整備のような「新たな取引」を生み出すもの以外の政府事業は、民間経済の自発的な成長に何の効果もないから、(何らかの状況で民間の自発的成長が始まらない限り)財政赤字は半永久的に続けることになり、それを財政ファイナンスし続ければ、市場に供給されるマネーは無限大に向けて増大し続け、格差を広げ続けることになる。

もし政府がそれ以上の財政支出をすれば、民間が支出を減らさざるを得なくなり、国民の暮らしを圧迫するすることになる。(戦時経済がその例。)
個人であろうが(政府ではなく)国であろうが、中期的に見れば、生産力あるいは収入以上の支出はできないという当たり前のことである。

〇 奇跡は起きない
MMTは「奇跡」を起こさない。マネーをつくり出して財政を穴埋めしようとする誘惑は、今に始まったことではない。ジョン・ローのミシシッピ計画(資産に基づくマネー発行)、貨幣改鋳(品質低下)、グリーンバック紙幣(マネープリント)、***。実物経済の拡大を伴わないマネーだけの限りない増加はいずれ破綻する。
一方、よく言われる「ハイパーインフレ」は、マネープリントから起きたというよりも、実物経済における生産・流通システムの破壊に起因する。

考えるべきは、どのようにして必要とする生産力、従って購買力を(労働人口減少の中で)維持あるいは増加させるか、そして、政府が必要な税額をどこから(負担できるところから)徴収するかという実物経済の地道な努力であって、「奇跡」を願っても役に立たない。
現状それが難しいのは、「経済はグローバル、政治はローカル(国別)」という中で、政府が国際化した企業をコントロールできないからである。
しかし、「マネーを作って解決」しようとするのは、目先の安楽を願う「麻薬」に手を出すことである。

MMT を歓迎しているのは、相異なる二つのグループで、
一つは、金融業界。金融業界は金融市場にマネーが流入し続けることで、キャピタルゲインを得られる。マネーが流入しなければ、ゼロサムゲームになってしまう。それゆえ、「理屈は何であれ」マネーを増加させることは全て歓迎する。
もう一つは、「反緊縮!」を掲げる急進左派。本来は、一次分配の格差是正を目指すべきなのだが、それを「待っていられない」と MMT という「麻薬」に手を出そうとしている。




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poimi

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Значение представленной стратегии подрезать крылья власти Единой России, а не гарантировать успех любого другого общественно-политического движения.
По сути своей "Умног голосование" сегодня это политическая стратегия, изобретена российским внесистемным политическим деятелем Алексеем Навальным как средство борьбы с "Единой Россией" умного голосования, проголосовать за главного оппонента кандидата "Единой России" во многих одномандатных округах везде по стране, вне зависимости от общественно-политической принадлежности и взглядов этого соперника.
Сегодня Алексей Навальный пребывает в тюрьме, и его собственное политическое движение заявлено "противозаконна", потому оно не имеет права действовать в России.
Как к примеру, в случае, если у либералов намного больше вероятности выиграть избирательный район, нужно проголосовать за него, когда даже вы ненавидите их.
А ряд его последователей приехал в другую страну, и они конечно все еще работают над списками умного голосования на грядущих выборах.


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by navalnyevigito (2021-09-19 10:29) 

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