岩本充 著 『金融政策に未来はあるか』 [読書感想]
金融政策に未来はあるか
岩本充 著 岩波新書 1723 2018.06.20 初版発行
【構成】
はじめに
第1章 日本の経験
1.高度成長とその終わり
2.流動性の罠とインフレ目標論
3.そして異次元緩和へ
第2章 物価水準の財政理論
1.誰が貨幣価値を支えているのか
2.物価水準の財政理論と金融政策の役割
第3章 マイナス金利からヘリマネまで
1.成長の屈折と自然利子率の問題
2.マイナス金利政策の意味と限界
3.ヘリマネはタブーか
第4章 金融政策に未来はあるか
1.貨幣の最適供給問題
2.仮想通貨から考える
3.通貨が選択される時代で
【考察・感想】
始まりは、2008年リーマン・ショックに端を発した金融危機。米・EUが金融緩和に転じたのに対して、(既に緩和をし尽していたと当時の白川日銀は考えていた)日本は、(産業界から見れば)日銀の無策のために空前の円高に苦しむことになった。そこで白川日銀非難の大合唱となった。
2013年、「白川日銀」に代わって「黒田日銀」が期待を担って登場し「異次元の緩和」が始まった。
その結果、確かに円安と株高が実現し、それにより輸出大企業は空前の利益を上げた。
他方、黒田日銀約束の2年が経っても2%の物価目標は達成できず、達成目標を何度先送りしても達成できていない。
この間に、『経済政策を売り歩く人々』(P. Krugman の著書の日本語題名を借用)が、
■ 「クルーグマンのインフレ目標」(p.18)
■ バーナンキの提言(p.32)
■ シムズ論(物価水準の財政理論、p.36)
■ サマーズの「長期停滞論」(p.80)
■ ターナーの日銀保有国債消却論(p.111)
■ ヘリコプターマネー論(P.112)
■ スティグリッツの政府紙幣論(p.117)
等々、日本のデフレへの処方箋と称して口を挟んできた。幸い今のころどれも採用されていないが。
黒田日銀の緩和政策は続き、誰が考えてももはや「真っ当な後戻り」は出来ない。緩和の出口は「誰も考えたくない」、唯々先送りの状況が続いている。
こうして溢れ続ける法定貨幣はいつか制御不能のインフレを起こして紙くずになるかもしれない。そうした事態に対応するものとして仮想通貨が登場してきた。仮想通貨が「通貨」として成功しているとは言えないが。
この著書に登場する諸説・理論を見ていると、「人間の体を血量と血圧だけで処置しようとする医者」を想像したくなる。出血して血の量が減っていれば、(止血ではなく)輸血せよ。血の巡りが悪ければ、(障害を取り除くのではなく)血圧を上げよ。・・・
実体経済から現代経済の現状を見ると:
■ グローバル化された開放経済では一国の経済政策で自国の経済を完全にコントロール
することは できない。
■ 世界的に経済成長が低下・停滞している主要因は、経済成長の主要因の人口ボーナス
(人口増加)が減った、あるいは、なくなったため。
■ 格差拡大とその結果の過剰供給力と過少購買力
■ 日本の長期停滞の主要因は賃金デフレ、大企業の内部留保
■ 世界的な赤字財政のため、市中には流通から外れた緩和マネーが金融市場に溢れ、
経済を攪乱ている。
■ 金利の低下は(投資)マネー需要がないため。
■ 中央銀行がベースマネーを増やしても、国債購買か、資産市場に向かうか、市中銀行
に滞留するだけで、実体市場の投資には向かわない。
こうした状況下で、 中央銀行の金融政策だけでデフレを克服可能か?
出来る訳がない。そもそも、黒田日銀の異次元の緩和政策は、「デフレは貨幣的現象」(p.35)、「物価を上げれば経済が良くなる」(p.9)という誤った根拠に基づくものであった。
今や「市場(マーケット)」と言えば金融市場を指し、天気予報以上に「株価と為替」がニュースになっている。中央銀行は「市場との対話」が重要と、当然のように語られている。『金融が乗っ取る世界経済』(Ronald Doreの著書の題名)ならぬ『金融が乗っ取った黒田日銀』。
金融業界は、金融市場にマネーが流入し続けることで、ゼロサムゲームにならずにキャピタルゲインを得られる。それゆえ金融業界の言うことは唯一つ、「マネーを増やせ」。「景気が悪ければマネーを増やせ」「景気が動かなければマネーを増やせ」「景気が良ければマネーを増やせ。」結局、黒田日銀は金融業界を潤しているだけだ。
なすべきことは、中央銀行を金融業界から実体経済に取り戻すことだ。
【構成】
はじめに
第1章 日本の経験
1.高度成長とその終わり
2.流動性の罠とインフレ目標論
3.そして異次元緩和へ
第2章 物価水準の財政理論
1.誰が貨幣価値を支えているのか
2.物価水準の財政理論と金融政策の役割
第3章 マイナス金利からヘリマネまで
1.成長の屈折と自然利子率の問題
2.マイナス金利政策の意味と限界
3.ヘリマネはタブーか
第4章 金融政策に未来はあるか
1.貨幣の最適供給問題
2.仮想通貨から考える
3.通貨が選択される時代で
【考察・感想】
始まりは、2008年リーマン・ショックに端を発した金融危機。米・EUが金融緩和に転じたのに対して、(既に緩和をし尽していたと当時の白川日銀は考えていた)日本は、(産業界から見れば)日銀の無策のために空前の円高に苦しむことになった。そこで白川日銀非難の大合唱となった。
2013年、「白川日銀」に代わって「黒田日銀」が期待を担って登場し「異次元の緩和」が始まった。
その結果、確かに円安と株高が実現し、それにより輸出大企業は空前の利益を上げた。
他方、黒田日銀約束の2年が経っても2%の物価目標は達成できず、達成目標を何度先送りしても達成できていない。
この間に、『経済政策を売り歩く人々』(P. Krugman の著書の日本語題名を借用)が、
■ 「クルーグマンのインフレ目標」(p.18)
■ バーナンキの提言(p.32)
■ シムズ論(物価水準の財政理論、p.36)
■ サマーズの「長期停滞論」(p.80)
■ ターナーの日銀保有国債消却論(p.111)
■ ヘリコプターマネー論(P.112)
■ スティグリッツの政府紙幣論(p.117)
等々、日本のデフレへの処方箋と称して口を挟んできた。幸い今のころどれも採用されていないが。
黒田日銀の緩和政策は続き、誰が考えてももはや「真っ当な後戻り」は出来ない。緩和の出口は「誰も考えたくない」、唯々先送りの状況が続いている。
こうして溢れ続ける法定貨幣はいつか制御不能のインフレを起こして紙くずになるかもしれない。そうした事態に対応するものとして仮想通貨が登場してきた。仮想通貨が「通貨」として成功しているとは言えないが。
この著書に登場する諸説・理論を見ていると、「人間の体を血量と血圧だけで処置しようとする医者」を想像したくなる。出血して血の量が減っていれば、(止血ではなく)輸血せよ。血の巡りが悪ければ、(障害を取り除くのではなく)血圧を上げよ。・・・
実体経済から現代経済の現状を見ると:
■ グローバル化された開放経済では一国の経済政策で自国の経済を完全にコントロール
することは できない。
■ 世界的に経済成長が低下・停滞している主要因は、経済成長の主要因の人口ボーナス
(人口増加)が減った、あるいは、なくなったため。
■ 格差拡大とその結果の過剰供給力と過少購買力
■ 日本の長期停滞の主要因は賃金デフレ、大企業の内部留保
■ 世界的な赤字財政のため、市中には流通から外れた緩和マネーが金融市場に溢れ、
経済を攪乱ている。
■ 金利の低下は(投資)マネー需要がないため。
■ 中央銀行がベースマネーを増やしても、国債購買か、資産市場に向かうか、市中銀行
に滞留するだけで、実体市場の投資には向かわない。
こうした状況下で、 中央銀行の金融政策だけでデフレを克服可能か?
出来る訳がない。そもそも、黒田日銀の異次元の緩和政策は、「デフレは貨幣的現象」(p.35)、「物価を上げれば経済が良くなる」(p.9)という誤った根拠に基づくものであった。
今や「市場(マーケット)」と言えば金融市場を指し、天気予報以上に「株価と為替」がニュースになっている。中央銀行は「市場との対話」が重要と、当然のように語られている。『金融が乗っ取る世界経済』(Ronald Doreの著書の題名)ならぬ『金融が乗っ取った黒田日銀』。
金融業界は、金融市場にマネーが流入し続けることで、ゼロサムゲームにならずにキャピタルゲインを得られる。それゆえ金融業界の言うことは唯一つ、「マネーを増やせ」。「景気が悪ければマネーを増やせ」「景気が動かなければマネーを増やせ」「景気が良ければマネーを増やせ。」結局、黒田日銀は金融業界を潤しているだけだ。
なすべきことは、中央銀行を金融業界から実体経済に取り戻すことだ。
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