日航123便事故 DFDR解析 [日航123便事故]

§ 日航123便事故DFDRの解析

 事故調の「急減圧」説に対する批判は多いが、事故調が「急減圧」の根拠とする、DFDRの記録に残された「証拠」に対する批判はあまり見たことがない。
 では、事故調のDFDR解読に反論の余地がないのかというと、(素人目で見てだが)疑問の余地はある。


1.事故調の「急減圧」説の要旨(『事故調査報告書』 付録4、p.56)
 
 (1) 事故発生+0秒、圧力隔壁の1列リベット部が破断して、圧力隔壁に1.8㎡の穴が開く。
 (2) 予圧された客室内から圧力隔壁の穴を通して、予圧されていない機体後部に空気が吹きだす。
 (3) 0.051秒後、APU防火壁が耐圧限界に達し、脱落する
 (4) 0.326秒後、垂直尾翼が耐圧限界に達し、破壊が始まる
 (5) 1.29秒後、客室内相対湿度が100%に達する
 (6) 1.656秒後、客室高度10,000ftに相当する圧力に到達する
 (7) 2.538秒後、客室高度14,000ftに相当する圧力に到達する
 (8) 6.8秒後、客室高度が外気圧力(24,000ft)に到達する、機内気圧は0.4気圧まで低下し
    気温は-40℃まで低下し、その間機内ではほぼ10m/sの風が吹いた。


2.事故調によるDFDR解析 
 事故調は、DFDRの記録から、上記の急減圧の証拠を読み取ることができたとする。
 事故報告書 3.1.7には、次のような説明がある。

 (1) 前後方向加速度(LNGG)
 18時24分35.70秒の前後方向加速度は、異常事態発生の前後に比べて約0.047G突出している。当時の重量を考慮すると、約11トンの前向き外力が作用したものと推定され、胴体後端部の破損がこの時刻付近で生じたものと推定される。なお、36.20秒以後の数秒間にわたって前後方向加速度は大きな変化を示すが、これは機体運動によるものと考えられる。

 (2) 垂直加速度(VRTG)
 18時24分35.66秒までは、ほぼ正常飛行状態を表す垂直加速度が記録されている。以後垂直加速度が36.16秒までわずかに増加し、36.28秒には約-0.24Gだけ跳躍し、その結果擾乱が始まっている。
垂直尾翼の破壊がこの時刻付近で生じたものと推定される。

 (3) 横方向加速度(LATG)
 24分35.73秒から35.98秒の間に、横方向加速度に最初の有意な変化が見られる。
 前後方向加速度突出直後の横方向加速度のこの変動は、尾部の破壊が35.73秒の以前で生じたことを裏付けるものと推定される。
 24分35.98秒以後、数秒にわたって横方向加速度に最大全幅0.08Gを超す振動が見られる。数秒後には完全に減衰していることから考えて、異常外力によって励振された自由振動と考えられる。

これら説明の基となる詳細な分析は付録6に記されている。


3.事故調による解析の疑問

【機体運動について】
 機体の垂直平面、すなわち前後方向と垂直方向の動きで最も重要なものは、ピッチ角、すなわち機首の上げ下げである。
 外力が働かない機体運動で、エンジン推力に変化がない場合、
 • 垂直方向については、ピッチ角(あるいは迎え角)が増えれば揚力(垂直加速度)が増加し、減れば揚力は減少する。
 • 一方、前後方向については、ピッチ角の増加は抵抗が増して、その分加速度は低下する。ピッチ角の変化で前後方向加速度が増加するのは、ピッチ角がマイナス(機首下げ)となって重力の加速度が進行方向に加わったときだけである。

【DFDR記録について】

 (1) 前後方向加速度
 事故調の説明では、35.70秒の前方向加速度の突出が、APU部の脱落で生じる前方への加速度の増加によるとしている。
 しかし、この加速度の増加は当然、客室内の予圧された空気が破損した圧力隔壁の穴から外気へ噴出したことによるもので、それがわずか0.1秒単位ほどしか続かなかったというのは考えられない。圧力隔壁に事故調がいう1.8㎡の穴が開いても、それは秒単位で続くはずである。
 一方、事故調が「36.20秒以後の数秒間にわたって前後方向加速度は大きな変化を示すが、これは機体運動によるものと考えられる。」としているが、36.6~36.7秒以後の時間帯にピッチ角が増加しているにもかかわらず、前方加速度が増加していることから、これが機体運動の結果とは考えられない。
 この36.6~36.7秒以後続く前方加速度の増加こそ、APU部が脱落して、圧力隔壁に開いた穴から予圧された客室内空気が後方に噴出していたことを示しているのではないか?
 つまり、APU部の脱落は、36.6~36.7秒近辺で生じたのではないか?
 (41秒以後の前方向加速度の増加は、エンジン推力の増加による)

 (2) 垂直加速度
 事故調は、「垂直加速度が-0.24G突出する36.28秒付近で、垂直尾翼の破壊が生じたものと推定される」としているが、もし垂直尾翼の破壊で与圧空気が上方に抜けて機体尾部に下方向の力が加わったとしたら、それは尾部下げ、機首上げのモーメントを生じるはずである。しかし、このとき機首は下がっている。
 そして、機首が下がれば、迎え角が減り、その結果揚力が減り、負の加速度が生じたのと同じ結果になる。つまり、これは予圧が尾部から上方に噴出したのではなく、「機体運動」によるものと考えられる。
 その後の垂直加速度の変化も、ピッチ角(迎え角)の変化と概ね一致ししている。

DFDR解析.jpg


 (3) 横方向加速度
 「35.98秒以後、数秒にわたって横方向加速度に最大全幅0.08Gを超す振動」が「異常外力によって励振された自由振動」というが、この(36秒~405秒)横方向の振動は、左右対称ではなく、右方向とやや左のほぼ中央との間で振動している。
 36.5秒~38.5秒の間、方向舵のペダル操作(PED)は、右に切られ続けている。機首方位はこの間僅かに右に変位している。38.5秒から40.5秒までペダルは左に切られ、変位も左に変化する。その後ペダルは40.5秒付近で僅かに右に切られているが、機首方位は左に変位したままである。
 横方向加速度の振動は、破壊されつつある尾翼がフラッターを起こしていて、40.5秒頃に方向舵の機能が完全に失われたことを示しているように見える。
 このように見ると、尾翼は一瞬にして破壊されたのではなく、一部が壊れ、フラッターを起こしながら破壊が広がっていったように見える。

DFDR解析 2.jpg


 総じて言えば、事故調による異常発生時のDFDR解析は、「急減圧説」を支持するために、35.70秒の前方加速度の突出と、36.28秒の下方への加速度の突出を、それぞれAPU部破壊と垂直尾翼破壊に無理やりあてはめたもので、その結果、その後のより大きな変動を「機体運動」で片づけようとしているが、これは理に合わない。

 事故調の説明を正しいと信じてしまえばそれまでだが、上記のような疑問を持つと、「では35.70秒の最初の瞬間的な前方加速度の増加は、それはCVR記録の「最初のドーン」の中の初期のピーク(CVRでは約35.6秒)に符合すると思われるが、何によって生じたのか」という疑問が残る。



日航123便事故 [日航123便事故]

§ 日航123便事故

 今年は日航123便の墜落事故から30年ということで、テレビでこれに関する番組が幾つか放送された。それに刺激されて、何冊か本を(おもに事故原因についての部分を)読んだ。また、YouTubeにボイスレコーダーの記録をアップロードしたものがあり、聞いてみた。

 資料から総じて得られたことは、この事故およびそれに関連した出来事には、未解決の問題・疑問が残っているということであった。それは、

1.「事故調査報告書」に記された事故原因は正しいか、特に「急減圧」はあったか?
2.墜落場所の特定・救出はなぜ遅れたか?特に、なぜ自衛隊は墜落場所の誤った情報を出し続けたのか?
3.事故調査のあり方、事故調査と犯罪捜査の関係の問題
である。


【参考資料】

1) 「事故調査報告書」 1987.06.19

2) 「墜落の夏」 吉岡 忍 新潮社 [コピーライト]1986
 1985年12月に、リハビリ中の落合由美さんにインタビューした内容が記載されている。それは、事故直後に発表されたものとは少し異なっている。

3) 「壊れた尾翼」 加藤寛一郎 技報堂出版 [コピーライト]1987.08
 著者は航空宇宙工学の工学博士。事故調査報告書の圧力隔壁破壊と急減圧を支持している。

4) 「隠された証言」 藤田日出男 新潮社 [コピーライト]2003
 著者は、事故調のいう「急減圧」はなかったとして、方向舵のフラッターにより垂直尾翼が最初に破壊したという仮説を提唱している。

5) 「機長の「失敗学」」 杉江弘 講談社 [コピーライト]2003
 著者は、「急減圧」も「方向舵フラッター説」も否定し、事故調の結論通り圧力隔壁破壊により垂直尾翼と機体尾部が破壊されたとするが、事故調のいう「急減圧」ではなく「相当な減圧」があったとという仮説を提唱している。

6) 「御巣鷹の謎を追う」 米田憲司 宝島社 [コピーライト]2005
 事故の原因としては、杉江氏と同様「相当の減圧」説。

7) 「日航機事故の謎は解けたか」 北村行孝・鶴岡健一 花伝社 2015.08.12
 事故原因については、大方事故調の結論を認めているが、疑問が残っていることも認めている。 
 事故調査関係者へのインタビューが記載されている。

【WebSite】

8) 日航ジャンボ機墜落事故 JAL123便 JA8119号機 昭和60年8月12日
  航空事故調査報告書に基づく 操縦室用音声記録装置(ボイスレコーダー:CVR)の記録


§ ボイスレコーダーの解読

 通常、事故機のボイスレコーダー音声が公表されることはないが、この事故では「諸々の事情」によって、これが外部に流出した。その結果、ボイスレコーダーの解読について、事故調査委員会による解読が批判されることになった。

 「事故調査報告書」中のボイスレコーダーの解読については、特に事故発生直後の運航乗務員(機長(CAP)、副操縦士(COP)、航空機関士(F/E))の間の会話、その中でも「オールエンジン・・・」について、議論が多い。

 YouTubeには、テレビの特集他、この関係の動画がたくさんアップロードされているが、下記の動画で聞いてみた。雑音が大きいのと機長が非常に早口で話すので、大変聞き取りにくい。
 耳がいいほうではないが、何とか聞き取った内容は、事故調が解読したものとずいぶん違っている。


【YouTubeアップロード動画】

 09) 日航ジャンボ機 - JAL123便 墜落事故 (飛行跡略図 Ver1.2 & ボイスレコーダー)
 10) 日本航空123便墜落事故フライトシミュレート(機外視点) ニコニコ動画GINZA


【事故調の解読】
    「・・・」は解読できなかった部分、アンダーラインは不確かな部分

18:24:35-36 ?ドーンという音
    37 ? 客室高度警報音または離陸警報音
    38 ①(?) ・・・
    39 ②(CAP) なんか爆発したぞ
    42 ③(CAP) スコーク 77
    43 ④(COP)ギアドア (CAP)ギアみてギア
    44 ⑤(F/E?) えっ (COP) ・・・ (CAP) ギアみてギア
    45
    46 ⑥(CAP) エンジン?
    47 ⑦(COP) スコーク 77
    48 ⑧(F/E) オールエンジン・・・

    51 ⑨(COP) これ見てくださいよ

    53 ⑩(F/E) えっ

    55 ⑪(F/E) オールエンジン・・・

    57 ⑫(COP) ハイドロプレッシャ見ませんか?

    59 ⑬(CAP) なんか爆発したよ
18:25:00

    04 ⑭(F/E) ギア ファイブ オフ



【動画で聞こえた内容】

 「?」は問いかけ。()は確信がないもの。赤の部分が事故調解読と異なるところ。
 時刻は確認できないので「事故調査報告書」に従う。

18:24:35-36 ?ドーン、ドーンと1秒弱の間隔で2回衝撃音
    37 ? 客室高度警報音または離陸警報音 1秒継続
    38 ①(CAP) まずい
    39 ②(CAP) なんか(爆発し)たぞ

    42 ③(CAP) スコーク スコーク この関係(いれ)るぞ
 「この関係(いれ)るぞ」は、恐らく機長が副操縦士に寄って言ったため、副操縦士のマイクから聞こえる。43秒にまたがる。
    43 ④(CAP)ギアみてギア
    44 ⑤(F/E) えっ (CAP) サンキュー (CAP?) ギア
 「サンキュー」は声があまり大きくないので、副操縦士への指示に副操縦士が何かしたことへの返事と思われる。

    46 ⑥(CAP) オーケー?
    47 ⑦(COP) スコーク セブン セブン
    48 ⑧(F/E) オレンギア>(all in gearのこと?) (オールエンジン・・・)

----(資料09の動画はここまで)

    51 ⑨(COP) これ見てくださいよ

    53 ⑩(F/E) えっ

    55 ⑪(F/E) オレンギア>(all in gearのこと?) (オールエンジン・・・)

    57 ⑫(COP) ハイドロプレッシャ見ませんか?

    59 ⑬(CAP) なんか(わか)った? (なんか爆発したよ)
18:25:00

    05 ⑭(F/E) ギア ファイブ オフ





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