友寄英隆著 『アベノミクスと日本資本主義 差し迫る「日本経済の崖」』 [読書感想]

『アベノミクスと日本資本主義 差し迫る「日本経済の崖」』
友寄英隆 著  新日本出版社 刊  2014.06.20初版発行

反アベノミクスの本である。
アベノミクスの経済政策を、現代資本主義の経済理論の混迷状態の表れと見る。
第1の矢:通貨・金融政策・・・・ニューケインジアン的な通貨・金融政策(インフレ目標)
第2の矢:財政政策・・・・オールドケインジアン的なスペンディング政策(公共事業政策)
第3の矢:成長政策(ミクロ政策)・・・・「新自由主義」的な「グローバル企業成長」政策(「規制緩和」と「構造改革」)
第4の矢:税制政策(消費税増税)・・・・「新自由主義」的な国民収奪政策(逆進的税制)
第5の矢:社会保障政策・・・・「福祉政策」縮滅による“反所得分配”政策

【構成】
第Ⅰ部 アベノミクスと日本経済の二極化
第1章 アベノミクスの全体構造
第2章 アベノミクスで二極化する日本経済
第3章 「成長戦略」と「新自由主義路線」
第4章 安倍政権のもとで、差し迫る「日本経済の崖」

第Ⅱ部 世界と日本の資本主義――現状と変革の課題
第5章 世界資本主義の現局面をどう見るか
第6章 日本資本主義の現段階をどう見るか
第7章 日本経済再生のために何が必要か――「成長戦略」に代わる「長期経済計画」の策定を

〈補論〉多国籍企業と国民経済

【考察】
1.この本の中で特に現状の問題で重要と思われるところ:

第Ⅱ部・第5章 (5) 世界金融危機後の資本主義の理論的・政策的な特徴――アベノミクスの背景
ニューケインジアンのインフレ・ターゲット論者(クルーグマンなど)は、
「――中央銀行が現在の通貨供給量を大胆に増大させ、それとともに、将来にわたって通貨供給量を大幅に増大するという約束をして、人々がその約束を信じて行動すれば、予想インフレ率が上昇することになる。そして、人々が予想インフレ率の上昇を見越して経済行動を行うようになれば、現在の家計の消費性向や投資意欲が高まり、デフレから脱却できる。」とする。
「予想(期待)」は、商品取引や金融商品の取引などにおける「先物取引」として発展している。そこでは「予想(期待)」が取引の前提であり、投機的投資に不可欠である。

※ 現代の「エコノミスト」は金融関係者がほとんどだから「予想(期待)」を常に口にするが、金融市場と実体経済には相違がある。実体経済の商品は生産され取引され消費される。しかし、現代の金融経済学は取引しか見ない。
実体経済では「家計は中期的にみて、収入以上の支出をすることはできない(したら破産する)」。また、「来年の食料を今年中に買っておこう」とする人もいない(そんなことしたら賞味期限を過ぎてしまう。)もしできたとしても、それは景気の波を作るだけである。即ち、今年は好況、来年は不況となる。

第Ⅱ部・第7章 (5) 「デフレ・不況」を脱却する「経済の好循環」のために
安倍内閣は・・・デフレを脱却して企業の利益が増えるようになったら、そのあとで賃上げが可能になるなどと慎重な構えである。
しかし、それは順序が違う。まず大企業が過去の儲けを蓄積した「内部留保」を活用して賃上げを先行させ、非正規雇用の正規雇用化などを先行させることが必要である。・・・大企業の賃上げと雇用安定の先行によって、日本経済をデフレから脱却させる突破口を切り開くことができる。そうすれば、企業の利益も増え、「経済の好循環」の道が開ける。

※ 国内経済に限って、資本主義を単純化すれば、家計が企業に労働を提供して、企業はその見返りに家計に賃金を払い、家計はその賃金で企業家ら商品を購入する。つまり、賃金を介して労働と商品が交換されている。企業が賃金を下げれば購入される商品も減る。これが「賃金デフレ」である。先ず企業が賃金を上げなければ、デフレは脱却できない。

〈補論〉多国籍企業と国民経済 (1) 「租税国家」の危機
各国とも「法人税引き下げ競争」に巻き込まれてきた。・・・「法人税率が高いと国際競争の上で不利になる」(国際競争力論)、あるいは「多国籍企業や大企業たちによるタックスヘイヴン(租税回避地)を利用した税金逃れが課題となる。」

※これも、「新自由主義」あるいは「(政治を伴わない)経済のグローバル化」の悪い面の表れである。各国が協調して、タックスヘイヴンを排除し、多国籍企業・大企業そして投機的金融取引に税をかけられるようにすべきなのだが、彼らが政治に強い影響力を働かせている現状では難しい。

2.アベノミクスの行方
私もアベノミクスには否定的だが、ある人が「悪法を悪法と知らしめる一つの方法は、一度それを厳密に実行することである」と言ったように、実行されているアベノミクスの結果はいずれ明らかになる。
安倍首相は
一年目には、結果(円安、株高)が(正しさを)示している、と言い、
二年目には、「途半ば」と言った。
アベノミクスの成否は、三年目に「家計の実質可処分所得」を増加に転じさせることができるかどうかにかかっている。アベノミクスの正の効果を受けている大企業や金融業界にとってこれは容易であろうが、負の効果を受けている輸入に依存する中小企業にできるであろうか?

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日銀による財政ファイナンスは「貨幣改鋳」と同じ [経済雑感]

日銀による財政ファイナンスは「貨幣改鋳」と同じ

 市中銀行が国債を購入し、その国債を日銀が市中銀行から購入するのは、法律的にどうであれ、その効果は日銀による国債の直接買い取りと変わりはない。
これは、パチンコで景品を間に置いて換金するのが、法律的にどうであれ、金銭ギャンブルであるのと同じである。

 財政ファイナンスされた国債は事実上償還されないのだから、政府による紙幣発行と何ら変わりはない。その効果は、「(金含有分を低下させる)貨幣改鋳」と同じで、貨幣価値の減価(depreciation)である。
 市中に存在する通貨の総量をPとし、財政ファイナンス(あるいは政府発行紙幣)による通貨の増加量をpとする。この時、通貨の総量がPから(P+p)に増加しても、総量の(対物)価値は変わらない。その結果単位当たりの通貨の価値はP/(P+p)だけ減価する。これは、実際には既存の通貨を持っている者からその量に応じて税を取っているのと同じである。

 もしPに比べてpが非常に小さければ(P>>p)、この減価の効果は明確には感じられない。その一方で、pを使って消費をすれば、いかにも景気が良くなったように見える。
 pが微小な時の偽りの効果に騙されてこれを大規模に行い、Pに比べてpが無視できない量になると物価高になり、漸く国が貧しくなっていることに気付く。しかし国のリソースは政府によって消費(浪費)されてしまっているので、元に戻すことは不可能である。その貧しくなった状態から再出発して努力しなければならない。



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