福田慎一著 「21世紀の長期停滞論」 [読書感想]

21世紀の長期停滞論 -日本の「実感なき景気回復」を探る
福田慎一 著 平凡社新書(Kindle版) 2018.01.15 初版発行

【構成】
はじめに

第1章 「長期停滞」という新たな時代へ
第2章 なぜ、長期停滞は起こったのか
第3章 日本の「実感なき景気回復」
第4章 長期停滞論からみた日本の景気
第5章 長期停滞下での経済政策
第6章 なぜ、構造改革は必要なのか
第7章 少子高齢化が進む日本の現状
第8章 イノベーションは日本を救うか
第9章 財政の持続可能性を問う
終 章「豊かな社会」を実現するために

あとがき

****

 この著書は、
   ・「サマーズの長期停滞論」の視点から、世界経済の低成長の説明(第1章、第2章)
   ・経済の長期停滞論から見た日本経済の状況(第3章~第5章)
   ・日本経済が長期停滞脱却するための構造改革の必要性(第6章~第9章)
そして、終章で「GDP成長を目標」とする経済の見方に対する疑問を呈している。

 終章で提示されるように、「GDPの成長」が究極の目標ではなく、「豊かさ」が目標であるとすれば、長期停滞といわれる現状への対処も変わる。つまり、「なぜGDPは成長しないのか、どうすれば成長するのか」を問うよりも、「「豊かさ」という目標に対してどんな問題があるのか、その解決策は何か」、あるいは「パイ(GDP)が不足しているのか」それとも「パイの分配に問題があるのか」を問うべきなのだが・・・。
 「最も望ましくない政策」は、財政赤字を拡大させて公共事業を拡大したり、需要の先取りをしたりて、現在のGDPの数字を無理やり引き上げていかにも政策が成功しているように見せ、課題や弊害を後の世代に押し付けるような政策である。

 本書では、「長期停滞」下の日本経済の課題として、急速に進行する「少子高齢化」と巨額に累積した「財政赤字」を挙げている。これを解決するために「構造改革」が必要としているが、何をどのように改革すればどのように解決できるのか、明確には示されていない。

 少子高齢化の問題は、一方で労働人口が減少し、他方で高齢人口の増加による社会保障費の増加である。これに対処するには、イノベーションにより生産性を高めることが必要であることは確かだ。
企業側から見ると、少子化による労働人口の減少を生産性の向上で補って生産力を維持することが目的となる。

 しかし、高齢人口増加による社会保障費の増加問題を解決するという観点からは、これだけでは不足である。生産性向上で企業が生み出す産出の増加分から、(企業に直接課税するかあるいは賃金の増加分に課税するかして)増える社会保障費にまわさなければならない。そうすると、日本の企業には減少する労働人口と増加する社会保障費の両方を負担しながら、国際競争力を維持するだけのイノベーションが求められる。

 現状では、このような企業への負担増加は「企業の海外逃避」の恐れを生じる。政治は国別、経済はグローバル化という現状の問題点は、政治が国際化した企業を統制できず、どの国でも企業に必要な課税ができないことにある。これは一国で解決できる問題ではなく、国際的な協調が必要であり、協力しない国は排除するような国際的な仕組みが必要となる。

 政府の累積債務については、「プライマリーバランス」をとるのが先決で、財政赤字で債務を累積させながら累積債務をどうしようかと論じても意味がない。
 債務をどこまで累積可能かについては、「状況次第」。日本が経常黒字を出し続け、(日銀ではなく)民間が国債を消化できる限り、どこまでも累積可能かもしれない。

 しかし、これと返済可能性とは別で、既に「まともな方法で」返済可能な範囲を超えている。
 民間が消化した国債を半永久的に償還しないで済めば、それは事実上徴税したのと同じで、しかも「税は負担できる者が負担する」という好ましい徴税の仕方になる・・・。




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